EOSのフロントドアスピーカーはミッドバスとツィーターの2wayです。しかしドアにはミッドレンジのグリルもあり、3wayにできるようになっています。これはドイツ本国のオプションであるdynaudioのサウンドシステム用のものです。
dynaudioシステムはフロント3way,リア2wayの10スピーカーシステムでシート下の専用アンプにより全てのスピーカーを独立駆動させるバイアンプ接続という本格的なものです。
日本ではdynaudioのオプションは用意されていません。これは恐らく日本では、MMSをはじめヘッドを日本製のAVナビに入れ替えてしまうことが多いためだと思われます。dynaudioの専用アンプは純正のヘッドユニットからしかコントロールできません。
EOSは純正でもそれなりの音はしますし、元々オープンカーなのでそれほど音にこだわっても仕方がありません。しかしオープン時に人の声などの中高音部が聞き取りにくく感じることがあります。音量をあげるのは周囲に迷惑ですから、中高音スピーカーをなるべく耳に近い位置に持ってきたいと考えました。さらに折角ミッドレンジのグリルがあるのに中が空洞というのは気分的にイヤです(笑)。
ということで、フロントに3wayのセパレートスピーカーを入れてみることにしました。
本来3wayのスピーカーはバランスを取るのが難しく、ヘタな3wayよりはきちんと設計した2wayの方が音が良いと一般的に言われています。勢い3wayセパレートスピーカーの大半は高級モデルとなります。しかし今回はグリルありきの3way選択で、純正のHDD MMS AVナビで駆動しますから高級スピーカーなどつけても駆動するアンプ側が負けてしまいます。
そこで選定基準は「3wayでEOSに取り付け可能でとにかく安いもの」というかなり間違った前提の元に選ぶことにしました。
とりあえず、純正よりマシで、オープン時に中高音部が聞こえやすくなれば、それで成功です。
どんなに安くて良いスピーカーでも入らなくては意味がないので、まずは取り付け部分の寸法を測ることから始めます。
そのためにまずはドアトリムを取ってみました。トリムの外し方詳細は取り付け編で記述しますが、トリムを取ったドアパネル内部は以下の写真のようになっています。
インナーパネルはABSのようなプラスチックでできており、ミッドレンジはプラスチックのインナーパネルに取り付けるようになっています。インナーパネルは最前部以外のドアのほぼ全体を覆っており、ドアにボルト止めされています。サービスホールは無く、ドア内部へのアクセスはインナーパネル全体を外すことになります。
ミッドバスは6箇所でリベット止めされていました。これはリベットを破壊して取るしかないので、取り付けには別途ボルトを用意しなければなりません。
トリム内奥行きは15cm以上あるので奥行きに関しては気にする必要はなさそうです。
ミッドレンジ部分は取り付けネジ穴が柱になっており、かなり複雑な形をしています。ネジ穴を生かすと3点止めで取り付けることになります。ネジ穴柱の高さはどれも20mmです。奥行きはトリムをつけてグリル穴から針金を差し込むと55mmありました。ネジ穴上面までの奥行きは35mmあることになります。ただしこの35mmにはトリム自体の厚みがあります。さらに取付けはインナーバッフルを介してになりますから、バッフル板の厚みを引くとそれほど奥行きに余裕はありません。
ミッドバス、ミッドレンジの周囲を色々測って図にしました。点線は周囲の余白です。
きちんとしたソフトで原寸出力すると縮尺1/2の図が印刷できます。(2倍で印刷すれば原寸大)
VW EOSドアスピーカー取付寸法図 (TIFF, 300dpi, 縮尺1/2)
空間が判ったのでスピーカーを選定します。なにせ選定基準が普通ではないので該当するスピーカーがほとんどありません。3wayセパレートスピーカーは、ほとんどが10万円超えです。
そんな中、最初に候補に上がったのがFOCALの165 V3 Eというスピーカーです(既に後継品の165 VR3に変わった模様)。3wayセパレートとしては実売6万円台という相当に安い価格。ところが10cmのミッドレンジは取付穴口径が93mmで、どうがんばってもEOSのネジ穴柱3本の中に入りません。また奥行きも41mmでバッフル板の厚みを計算に入れても足りるかどうか怪しい。ということで却下となりました。
そこでもう少し小さいミッドレンジの3wayで安いもの… と探したところ、DLSのReference 6.3というスピーカーが見つかりました。DLSはスウェーデンのメーカーらしいのですが社名すら聞いたことがありません。検索してもあまり情報はなく、どうやら柔らかい音質のスピーカーらしいです。カタログ値としては定格入力もそこそこで、能率も高いのでAVナビヘッド向けと言えなくもありません。なによりドームミッドレンジの取付口径82mm,奥行き25mmというのはEOSに入るのにちょうど良い大きさです。3wayで値段が安く条件に合いそうなのはほとんどこれしかない、ということでほぼ一択で決定しました。音に関しては純正よりマシなら良しという条件なので大丈夫でしょう、聞いたことありませんが…
ところで取付口径は大丈夫ですが、スピーカーのリブが周囲に干渉しないかが気になります。そこでミッドレンジの外径を調べた所、DLSの本国サイトに情報がありました。外径は100mmということで図を書いたところ、スピーカーの中心をインナーパネルの円の中心に合わせると上部が周囲と干渉してしまいます。干渉しないように左下にずらすことにしました。
ずらしたのが下の図です。
きちんとしたソフトで原寸出力すると原寸大の図が印刷できます。
DLS Reference 6.3ドームミッドレンジ取付用寸法図 (TIFF, 300dpi, 縮尺1/1)
この円に沿ってインナーバッフルを作ります。実際には取付用のネジ穴部分が滑らかにつながるように周囲を形取ることになります。スピーカーリブと取付ネジ穴が干渉しますが、バッフルにネジ頭を逃がす「座ぐり加工」をすれば問題ないはずです。
今回スピーカーを購入したところは、ネットショップのサウンドウェーブメイワです。DLSのReference 6.3を取り扱っているところで見つかった中では安かったのが選択理由。
ところで、このショップではインナーバッフルの製作販売も行っています。しかも通常はMDFを使用する所をバーチ積層合板を使用し、防水のためにFRP樹脂塗布をするという凝ったもの。さらに上の素材としてアピトン積層合板まで扱っています。バーチ積層合板は室内用の自作スピーカーなどではMDFより優れた素材として使われるようです。正直私の使用目的では猫に小判の気がしますが、防水がしっかりしているのは魅力的です。価格も素材と塗布の手間を考えれば納得のいくもの。図面からの特注もOKということなので、今回はミッドレンジ用、ミッドバス用共に製作をお願いしました。同時購入ならスピーカー側は現物合わせしてもらえるという安心感もあります。前節の図面もメイワさんとのやりとりをしながら完成させたものです。
板の厚みは12,15,18mmと選べますがミッドバスは18mm、ミッドレンジは小さくて複雑な形状なので加工しやすい薄い板の方が良いということで12mmになりました。ミッドレンジは元々厚みを取れるか不安があるので薄いのは好都合です。
製作に取り掛かれるという連絡を受け、入金して待つこと一週間、スピーカーとインナーバッフルが届きました。
インナーバッフルを最初に見た感想は「硬い」。以前にMDFで作ったものに較べて明らかに硬いし重いです。素材が違う上にFRP樹脂塗布により硬化していますので当然と言えば当然なのですが…。
さて到着して真っ先に気になったのはミッドレンジの厚み。前節に書いたとおりトリムまでの許容範囲が35mm(トリムの厚さ含む)しかありませんので、バッフル板と合わせて30mm程度以上あるとトリムと干渉して「アウト」です。で、ミッドドームの厚みを測ると…25mm程度あります。バッフル板12mmと合わせて37mm。完全にダメです。
さて、どうしようか… と一瞬悩みましたが、よく見るとミッドレンジの箱の中にもう一つフレームが入っています。なんとサーフェスマウント用のフレームが同梱されていました。フレームをこれに取り替えると厚みは1cmほど。これならバッフル板と合わせても22mmで間違いなく大丈夫。もちろんフレーム下の奥行きがその分増えるのですが、こちらも実測で27mmほど。ネジ穴柱20mmに12mmのバッフル板をプラスしてこちらも問題なくOK。
こんなものが同梱されているとはメーカーサイトのページや公開されているマニュアルにも記載されていませんでした。本当にラッキーです。
ただ、このサーフェスマウント用のフレームは取付穴が2mmほど余計に必要でした。製作してもらったインナーバッフルは標準のドームフレーム用の82mmの穴です。(マニュアルにもwebサイトにもこのサイズしか記載されていません)
こればかりはどうしようもないので、自分でインナーバッフルを削って広げましたが、バーチ板+樹脂硬化による硬さを身を持って思い知らされました(笑)。
後日談になりますが、ミッドバスの取付状態はゴルフVのフロントスピーカーと全く同一であることが判明しました。従ってゴルフV用の市販インナーバッフル、例えばパイオニアのUD-K507が使用できます。リアスピーカー交換時にバッフル板を流用するためにインナーバッフルをUD-K507に交換しました。
全て揃ったのでいよいよスピーカーを取り付けます。まずはドアトリムを外さなければなりません。トリムの取り外し方は基本的に左右とも同じです。まずは室内のハンドル部を外します。助手席側は水平に、運転席側はミラー、パワーウィンドウスイッチ部を垂直に単に引っぱるだけです。やってみた所では特に助手席側がプラスチックに金属の爪が噛んでいて非常に固かったのですが、とにかく全体をなるべく均等に引っぱり外します。外れるとねじが2本見えますのでこれを外します。
さらに別途、ドアオープナーの部分に隠しネジがありますので蓋を取ってネジを外します。
次にトリムの一番下にネジが3本ありますのでこれを外します。
それが終わればトリムを下側から水平にひっぱり剥がします。前部と後部にプラロックがあるので剥がすときにはそれを意識してください。またトリムの上部はドアパネルの桟にはまっていますので、上辺を軸に、下から上に跳ね上げる意識でやると良いと思います。
バリバリとプラロックが解除される音がして、固定がゆるくなったら今度はトリムを垂直に上に持ち上げます。
ミラー脇のツィーターグリルがつかえているように感じますが、擦れているだけなのでとにかく垂直に持ち上げてください。後部側から先に持ち上げて外していくと楽かもしれません。これでトリムの上辺が桟から外れてトリムが取れます。
トリムが外れたら、まずはトリム側のスイッチにつながっているコネクタを外してください。助手席側はウィンドウスイッチ1箇所、運転席側トリムは沢山スイッチがありますがコネクタはまとめられていて2箇所のみです。
さらにドアオープナーのワイヤーも外します。ワイヤーとコネクタが外れればトリムは完全にドアパネルと分離できます。
続いてツィーターグリルを外してしまいましょう。こちらは三角形のグリル下のネジ1つを外したら水平に引っ張るだけです。ここも固いですが、とにかく全体をなるべく均等に水平に引っ張ります。上部のロックが非常に細くて折れやすそうなので水平以外の力をできるだけ掛けないように。
ツィーターグリル内部はスポンジが入っているのでスポンジを外します。するとツィーター本体が見えます。ボンド(というかゴムパテ状のもの)で固定されているので剥がしてしまいます。これで一応表面のグリル穴が露出します。ここからは取り付けるツィーターによって個別対応になると思います。私の場合は同じ2cmのドームツィーターをつけるのですが、そのためには純正のドームフレームが邪魔でした。このフレームは3箇所でプラスチック溶解止めされていますので、止めてある部分を折り取ってしまいました。これでReference 6.3のツィーターを標準フレームに入った状態で周囲に強力両面テープを貼り、グリルに押し込むとぴったりでした。スポンジも綺麗に戻せてまるであつらえた様です。
交換が終わったらツィーターグリルを元に戻します。
次にミッドレンジを取り付けます。ネジ穴柱の周囲にあるリブが五徳のように飛び出しているので、飛び出している部分だけをカッターなどで切り落とします。後はインナーバッフルをネジ止めしてからスピーカーをつけてお終い。インナーバッフルの固定はM5x20mmのトラスねじを使用しました。M4では少し緩かったです。
一応トリム内への音抜け防止に周囲にすきまテープを貼っておきます。
ここでネットワークを取り付けます。配線を考えるとドアトリム内側につけるしかないのですが、ネットワークは意外と大きく厚みもあるので取り付けられる場所が限定されます。結局ドア後方につけるしかありませんでした。本当はスピーカーに近い前部につけたかったのですが場所がありません。
通常の振動に加えてドアの開閉の力もかかるので、両面テープとネジでがっちりと取り付けます。インナーパネルが樹脂なのでネジ止めが容易でした。
ネットワーク端子は剥いたケーブルを直接締めてもよいのですが、今回はクワ型端子を圧着。ミッドレンジは付属ケーブルがちょうど良い長さでしたが、ツィーターは足りなかったのでケーブルを延長。ミッドバスはそもそもケーブルは付属していません。
スピーカー入力はいつもは純正のコネクタを切断してギボシ端子などをつなぐのですが、今回は端折って純正コネクタがメスなのを良いことに平型端子(Sサイズ)を挿入します。もちろんこれだけでは簡単に抜けてしまうのでビニールテープで固定。
最後にミッドバスを取り付けます。純正はリベット止めなのでリベットを破壊して取ります。
外したところでインナーバッフルを取り付けます。18mmのバッフル板を取り付けるのにM4 25mmのボルトを使用しました。
バッフル板をつけた所でネットワークからミッドバス用の配線を引いてきます。純正はインナーパネル表側にコネクタがあるのですが、通常ミッドバススピーカーの端子はパネル裏から取るようになるはずです。インナーパネルにはサービスホールが無いので、どこかに穴を開ける必要があります。今回はミッドレンジすぐ下にあった蓋に穴を開けてケーブルを通しました。パネル裏はウィンドウが昇降するのでケーブルはなるべくパネル裏でたるまないように処理します。
ミッドバスにケーブルを接続したらインナーバッフルに取り付けます。スピーカー周囲にすきまテープを貼りますが、ミッドバス部分のトリムとの隙間は膨大なので、すきまテープだけでは到底対応できません。
そこで、外した純正スピーカーにトリム内への音抜け防止フードが嵌っているのでこれを取ります。フードのコネクタ周辺部に突起があるので、インナーバッフルの厚みを考慮し、同じ高さになるように切ります。
そして同じ高さを保てるように適当なプラ板等を3箇所程度フードに貼ります。これを先ほど貼ったすきまテープに嵌めればできあがり。トリムで押さえられるので嵌っていればOKです。
これで完成です。あとはトリムを戻す前に試聴して音がでるかを確認。配線をきちんと固定してネットワークの設定を変えたければ変更します。(私は結局デフォルトにしました)
あとはトリムを戻すだけなのですが、トリム前後の固定プラロックがロックが解除されずにパネル側に残ってしまう事がままあります。これは引っ張ってロックを外してトリムに戻すしか無いのですが、とにかく固い。
満身の力を込めないと外れません。構造を調べたのですが残ってしまったらとにかく引っ張るしかないようです。
戻すのは外す逆の手順を行うだけです。ドアオープナーワイヤーやコネクタを嵌め忘れないように。またハンドル部のネジをつける時に誤ってトリム内にネジを落とさないよう注意です。
まず片側だけ完成した状態で純正と聴き較べました。純正では足下からぼんやりと湧き上がっていた中音部がはっきり前から聞こえます。男声などの中音が非常に聴きやすくなりました。さすが腐っても3way、ミッドレンジが上方にあるのは効果大です。目的のひとつは完全に達成しました。
さて、もうひとつの目的の純正よりマシか? ですが、さすがに別売りのスピーカーだけあって初期状態でも純正よりはマシです。純正はミッドバスがフルレンジとして働いていたので当然ですが、中高音が明らかに明快になりました。
ただ初期状態ではやはり「純正よりマシ」レベルでそれほど素晴らしい音ではありません。これは当然でマニュアルにも「最低15〜20時間の再生の後に正しい性能を発揮する」と明記してあります。このような徐々に変化していくものをきちんと評価できるほど私の耳は良くありませんが、幸いリアスピーカーという相対評価の指標があるので、今の時点での違いを覚えておけば、どのようになったかある程度は書けると思います。
さらに面白い事がひとつ。今まではそんな事はなかったのですが、レーダー探知機の(振動による)停止検知が、音楽を聴いていると停止が検知できなくなりました。もちろん別に大音量ではなく、片側づつで比較した時にも純正よりも心持ち音量が小さく感じるぐらいでしたし、ボリューム値も純正時と変わりません。
どうやらそれだけドアパネルにしっかり固定されたという事のようです。もちろんレーダー探知機は検知感度を変更できるので問題はありません。
2007.7.12
kaishi.00+web@gmail.com